1日目【2004年某月某日】
長いこと音信不通だった愛人T氏から、

『1ヶ月ほど留守にするので、知人から預かるのを頼まれたペットを預かっていてほしい』

とのメールが入ってきた。
わたしと彼とは、声で連絡のやりとりはしたことがない。 連絡手段はほとんどが今回のようにメールか、もしくは第三者を介してなのである。
久々に彼からのメールだと喜んだのも束の間、「人様のペットを預かってほしい」? しかも、「1ヶ月ほど留守にする」のである。

ずっと連絡もなかったクセに、留守もないものだ。

憮然としながら画面を見ていると、この文章には続きがある。

『このペットの名前は「みみかき」と言う。 たぶん、君とは相性が合うと思うよ』

…彼の知人さんは、相当なネーミングセンスを持っていらっしゃるらしい。 まぁ、それは置いといて。
本日こちらに届くように、ペットを送ってくれるそうなので、自宅にて待つ。 ペットなのに、フツーに送ってもよいのだろうか…。 まぁ、それは置いといて。

玄関のインターホンがなったので、いそいそと取りに行く。 箱からは、ゴソゴソという物音がしている。
おそるおそる開けてみた。 本日から期間限定だけどわたしの家族の一員となるのだ。 ちょっとドキドキしてきた。

箱の中には、一匹の生物。 はじめの挨拶は何にしようかと言いあぐねていると、みみかきから口を開いた。

「………この家、狭っ」

どうやら、わたしは、みみかきとは上手くやってけそうにない。

2日目【2004年某月某日】
ひとつ、重要なことを忘れていた。

みみかきの性別を聞いていない。

彼に連絡を取ろうにも、行き先を聞いていない。 メールアドレスは自宅のものか職場のものかすら聞かされてもいないし。
このあたりに、彼にとってわたしがどういう存在なのかという一端が垣間見えるであろう。

まぁ、それは置いといて。 こうなれば当の本人(?)に聞いてみるしかない。

『みみかき、あんたってオス? それともメス?』

「お前なんかには絶対に教えてやらない」

…ちょっとだけ、ちょっとだけ絞めてやろうかという思いがかすめたのはここだけの話。

3日目【2004年某月某日】
あんな答えではわたしの気がおさまらないので、わたしが仕事に行っている間に、弟にみみかきの性別を聞いてもらうことにしておいた。
帰宅してから、弟に結果を聞いてみた。

すると、弟が、いい年をして目に涙を浮かべてこちらを見つめながら、首を横に振るではないか。
その傍らでは、みみかきが、ウチの冷蔵庫にある、数少ない○ピコアイスを啜っている。

一体、どれほどのダメージを弟に与えたというのだろうか。 みみかき、恐るべし。

4日目【2004年某月某日】
仕方がないので、性別については不問にしておいた。
今日は会社へ行くのに、親にクルマで送ってもらった。 みみかきがクルマに興味を示している様子なので、乗せてやる。

景色が流れていくので、珍しいようだ。

途中で、昼ごはん調達のため、コンビニに寄り、みみかきの傍らに置いた。
ふと、みみかきから目を離したあとに再び見ると、みみかきの足元にプリンの空容器が転がっていた。
クルマに乗ったときはそんなものなかったのにと思っていると、コンビニの袋の中身のものが何か足りない。

プリン食われとった。
かなり悔しくなったので、デコピンをかましておいた。

5日目【2004年某月某日】
お隣さんちのシーズーが遊びに来ていた。 彼女らは我が家のアイドルでもある。
みみかきが密かに対抗心でも燃やしているのか、彼女たちのほうを見つめている。

自分も犬だと思っているのか。

と、犬が2匹しかいなかったのに、3匹に増えている。 しかも、隣の犬にそっくりな犬が。
みみかきを探してみるが、見当たらない。

…擬態?

6日目【2004年某月某日】
みみかきが、わたしの職場に行きたいと言って聞かない。
わたしが、「キレイなおねぇちゃんがたくさんいるよ」と言ったのがいけなかったのだろうか。
7日目【2004年某月某日】
体調が悪くて寝込んでいたのだが、枕元でみみかきがずっとついていてくれた。
ホントはいいヤツなんだなぁ…と、ぼんやりした頭で考えていたら、なにやらブツブツという声が聞こえている。

の、呪い!?

8日目【2004年某月某日】
わたしが先日買ってきたネイル関係の雑誌を、みみかきが熱心に読んでいる。
それから時々、じっとわたしの顔を見つめてくる。
思うに、自分にもしてもらいたくて仕方のない様子なのだが、

見たところ、みみかきには爪にあたるものが見当たらない。

9日目【2004年某月某日】
仕事から帰宅すると、みみかきが、お笑い番組を見ていた。
笑いもせず、泣きもせず、ただじっとテレビを眺めている。

声をかけたらこちらを見たので、どうやら意識だけはあったようだ。

「みみかき、気に入った芸人さんとかいた?」と聞いてみた。 そしたら、

『カンニングの太いほう』という答えが返ってきた。
カンニングという芸人さんの名前はわたしも一応聞いたことはあるが、太いほうと言われても、個人の名前となるとよくわからない。
なので、おそらくわたしよりもよく知っているであろう、みみかきに尋ねると、

『知らん』

10日目【2004年某月某日】
会社に着いて、自転車からかばんを降ろすと、妙に重い。
しかし、家を出てから自転車に入れるまでは普通にいつもの重さだったのだ。

なんとなく気になったので、かばんを空けて中身を見てみると、見慣れない物体が入っている。

ひっぱりだしてみると、すごく薄っぺらい物体が出てきた。

よく見てみると、みみかきだった。
いつ入ったんだろうか。 手品覚えたとは聞いてないし…。 もしかしてみみかきは超能力者だったんだろうか?

11日目【2004年某月某日】
みみかきが、わたしの部屋の漫画を読破したと報告してきた。 なかなかやりおる。
しかし…同時に困ったことも起きた。
活字に飢えているみみかきは、漫画の補充をわたしに要求してきた。 それも、1日10冊。

しかも、条件として、「新品であること」と注文してきた。

そんなことされたら、わたしは破産してしまう。
おまえの目を潰してやろうか、と言いかけたが、かわいそうなのでやめておいた。

12日目【2004年某月某日】
部屋の掃除をしていたら、みみかきの寝床として提供してやっている洗濯籠から、いろいろなものがゴロゴロ出てきた。
本やらロウソクやらヒモやら、一体何に使うのかといったものも、それはもうたくさん。

買い与えてやった記憶もないし、今までも家にあったという物ではない。

…このごろわたしのサイフの中身の減りがものすごく早かったのはやはり気のせいではなかったのか?

13日目【2004年某月某日】
エアコンが壊れてからというものの、みみかきがすっかりわたしの部屋に寄り付かなくなった。
これはこれでちょっと寂しかったりする。

例えるならば、かゆいところに手が届く、孫の手がなくなったような、そんな感じ?

14日目【2004年某月某日】
エアコンが壊れているなか、みみかきに、昨日はどこを寝床にしたのか聞いてみた。

『冷蔵庫』

…空耳にちがいない、うん。

15日目【2004年某月某日】
みみかきの頬の部分から、毛が伸びていた。
みみかきに、「ヒゲ伸びてるよ」と教えてあげたら、「ヒゲじゃない」との答えが返ってきた。

みみかきによると、「鼻毛」なんだそうだ。
では、頬はどの部分なのだろうか。

16日目【2004年某月某日】
みみかきが、冷凍庫で涼んでいた。
凍っていたので、外に出して解凍させてあげた。
17日目【2004年某月某日】
友人が、本日入籍した。
お祝いのメールを送ってあげたら、横でみみかきが、「入籍とは何ぞや」と聞いてきた。
意味を説明してあげたら、「自分も入籍してみたい」と言い出した。

みみかき、相手が必要なんだよ?

と言ってやったら、「けいでもいい」と言われた。

「でも」?

18日目【2004年某月某日】
明○のヨーグルトキャラメルを見つけ、ついつい懐かしく思ったので、買ってきた。
みみかきが欲しそうにしているのに気づいたので、ひとつわけてあげた。

そしたら、いたく気に入った様子で、

「とりあえず100箱くらい買って来い」と言い出した。

      

今食ってるやつ、のどに詰まらせてしまえと思ったことは心の中にとどめておくことにしてやる。

19日目【2004年某月某日】
再び、みみかきが何かぶつぶつ言っている。
耳をすませて聞いてみると、「巻き爪巻き爪巻き爪…」と連呼している。

今日一日、この言葉ばかり言っていた。

20日目【2004年某月某日】
みみかきが、包帯を巻いていた。
どこか怪我をしたのかと聞いてみると、どこも悪くはないという。
では何故?

「まねっこ」

21日目【2004年某月某日】
みみかきが家に来て、もう20日が過ぎた。
「いつもお世話になってるお礼」と、みみかきが、なにかを持ってきた。

なんていいヤツなんだ!と感激しながら目の前に置かれたものを見てみると、

ネズミ。

前言撤回しよっかなー。

22日目【2004年某月某日】
みみかきが、作文作りにはまっているようだ。

「ひっそりと」という言葉を使って文章を作りなさい という問題を解いている途中らしかった。

どんな文章をつくっているんだろうか?

『ひっそりと電気シェーバーの違いがわからない』

…ん?

23日目【2004年某月某日】
足音をたてずに、みみかきが歩いている。
老後にそなえて練習しているのだとか。
聞けば、なりたいものがあるらしい。

何になりたいのだろうか。

「弁当屋」

何のカンケイがあるんだろうか。

24日目【2004年某月某日】
所用で、週末はみみかきの相手ができないので、とりあえずごきげんうかがいにプリンを与えてみた。

うーん…おかわりも含めて20個くらいあれば足りるかな…。

25日目【2004年某月某日】
家から出てたので、家族に飼育を任せてました。
26日目【2004年某月某日】
夜に旅行先から帰宅。
みみかきはわたしがいなかったために、十分に羽をのばし、伸ばしつかれて寝てた。
27日目【2004年某月某日】
このごろ、みみかきが色気づいてきたのかどうかは知らないが、なにかポーズの研究をしている。

目標としているのは、桜樹ルイだそうだ。

…わたしはどうフォローすればいいのだろう。

28日目【2004年某月某日】
愛人T氏から、28日ぶりにメールが来た。

『そろそろみみかきを次の里親に出すそうだから、荷造りしといてよね』

ああ…そうか、そろそろ1ヶ月が来るんだなと思いつつ、みみかきを見つめていると、腹を出して眠りこけていた。
こいつに「感傷」を求めていたわたしが愚かだった。

29日目【2004年某月某日】
休みだというのに台風なので、みみかきと一緒に部屋でのんびりしていると、みみかきがこんなことを言い出した。

『けいは、まだヨメに行かないのか?』

余計なお世話だ。

30日目【2004年某月某日】
とうとう、みみかきとお別れするときがやって来た。
ウチに来たときのように、せめてと思い、丁寧に梱包してやった。
箱のなかのみみかきに、何か言うことがあれば聞いてやると言ってみた。

『1ヶ月一緒にいたけど、けいとはうまくやってこれたよ。 次はここへ行くから、ヒマがあれば遊びに来てもいいぞ』

あれでうまくやってこれたとでもいうのだろうか。 まあ、みみかきがそう思ってるからよしとしよう。
さよなら、みみかき。 短い間だったけど、貴重な経験ができたよ。 次の里親さんのところでも元気で暮らせよ。

そうみみかきに伝えたあと、みみかきは迎えに来たUFOに連れられていった。

みみかき。 最後に言い忘れてた。

結局、おまえの性別を聞いてないし、次の里親さんのところへ遊びに行こうにも、家の場所を知らないのだが。